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「儚い」と「美しい」は紙一重だと思った瞬間を

2008.04.28 未分類
「あなたはよく分からない人だ」
 面と向かってそう口走ったのは、今まであまり話をしたことのない相手だった。
 綺麗な金髪を持つ相手は俺より背が低いので、どうしても見下ろす形になってしまう。その行為に嫌悪感を示すほど踏みにじられてはいなかったが、過去の幾年かを思い出すので極力避けたいことだと言っても嘘にはならない。少し下の方に見えるのは闇の中で光る金髪と、かつて知り合いが言っていた『空色』の瞳、それから貧乏を着飾ったような質素な服だけだった。顔には微笑も何も映されていない。
「よく分からないって、一体何が分からないというんだ」
「あなたの全てが、ですよ。あなたは彼と行動を共にしておきながら、なんにも変わってないじゃありませんか、それがおかしなことだと僕には思えるのです。しかし、まずは聞きましょう。さあ、あなた、あなたは彼と共に歩いて、何か一つでも変わったことがあると言えますか」
 俺には相手の質問の意図がよくのみこめなかった。こんな質問をぶつけられて、何を答えてほしいのだろうか。そもそも相手の言う『彼』というのは誰のことなのか。いや、それは本当は分かっている。分かっているが、そうだとしても相手の真の意図は誰にも分からないことじゃないか。
「僕はあなたは根っからの臆病者だと思いますがね」
 そうして相手は残酷なことを言った。
「お前、そんなことを言うためにわざわざここまでやって来たとでもいうのか」
「ああ、怒らないでください。それは卑怯なことですよ、ラザーさん」
 いきなり名前を呼ばれた。都合の悪いことをしてくれる。何故そうやって俺の苛立ちを誘う。
「僕は一度あなたと二人きりで話してみたいと思っていたんですが、ほら、あなたの傍にはいつも誰かがいたじゃないですか。それはカイさんだったり、樹さんだったり、真さん――でしたよね? その人だったり。そうやって機会を狙っているうちに、物語はすっかり終わってしまったんですよ。だからもう永久にあなたとは話ができないのだと思っていました。ですが、なんという因果か、こうして二人きりになることができたんだから。せめて精一杯話し合おうじゃないですか。ねえ……僕はあなたを見ていて可哀想だとは思いませんでしたよ」
「ああ、うるさいな。俺はお前となんか話したくない」
「駄目ですよ、そうやって何でもかでも頭ごなしに否定していては。昔はそうじゃなかったじゃないですか? 残念ですがあなたの過去はロスリュさんから聞きました。僕はあなたを知っています。さすがに未来は知りませんが、過去はちゃんと記憶しているんですよ。目では見られなかったけれど、情報をつかむだけでもう十分満足しています。そして、僕は泣きませんでした。うん……可哀想だって思わなかったから、でしょうか。でも一つだけはっきりしていることは、あなたはとても臆病者だということです。そこには僕も注目しました。そして考え出したんですが、なんだかよく分からないのです。僕は今まで、あなたの性格はとても分かりやすい、見やすいものだと思っていました。ですが今はそうだとは言えません。どこか微妙な点において、あなたは急に複雑になります。その陰に何が潜んでいるかまでは聞き出そうと思いませんが、ぜひ教えていただきたいのです、あなたのその複雑さがどこから来るのかということを」
 長々とした演説を繰り出す姿を見ていると、昔のことを思い出す。まるで聞き手のことなど無視したような、ただ喋っていれば救われると思っていた昔の自分。しかし昔の俺と今の相手とでは決定的に違う部分があった。それは、そうだ――相手は俺に向かって言葉を発しているんだ。昔の俺のような独りよがりの幸福を求めるようなものではなく。
「俺にはあんたの言っていることの意味が分からない」
「分からないですって、何故ですか、あなたは自分をよく理解しているはずです」
「自分を他人以上に理解している人間なんていない。少なくとも俺はそう思っている。しかし、あんたの問いに今の時点で答えるとしたら、それは憶測の枠を越えることができない」
「それでも構わないですから。どうか、どうかおっしゃってください」
 何故彼はそこまでこだわるのだろう。そんなことは分からない。
「だって俺は残忍だったから。いや、今もそれは変わらないかもしれない。俺は臆病な人間に対しても、全くそうではない人間に対しても、どんな場所でどんな生活を送っている人間に対しても、誰彼かまわずひたすら臆病者だと繰り返していた。その真意がどこにあったのか、もう分からない。長いあいだ闇の中で眠っていて、なんにも気づかずに生きていたんだと思う」
 これ以上は何も言えなかった。相手は真面目そうな表情をしていた。そして一歩こちらに近づき、ぴたりと視線を合わせてきた。
 空色の瞳が俺を見ている。
「ちょっと……かがんでくださいませんか?」
 表情を変えないまま相手は言う。なんだかよく分からなかったが、相手の言うとおりにしてみた。ちょうど顔が同じ高さになるとそこでいいと言った。そして今度は目を閉じろと言ってきた。
「何をするつもりなんだ」
「大それたことじゃありませんよ」
 何かはするつもりらしい。しかし、普段ならここで笑みを見せるものが何もないところを考えると、どうにも従わざるを得ない魔力を感じさせるので困る。俺は素直に従ってみようと思った。
 目を閉じると暗闇が見えた。暗闇と葛藤と、光のない花園が脳裏に浮かんだ。
「あなたは何故、孤独だったのですか? あなたは何故、苦しんでいたのですか?」
 分からないことばかりを聞く。そんな相手が嫌いだ。大嫌い。
「あなたは自分のことを、心のない器だと思いましたか? あなたは自分のことを、恐ろしい化け物だと怖れましたか?」
 嘘だ。嘘ばかりを言う。そんなことは皆、でたらめに過ぎない。
「あなたは救いを求めますか? あなたは光を信じたいですか?」
 聞くな。聞かないでほしい。聞かないでくれよ、頼むから。
「あなたは――」
「黙れ」

 鋭利な刃物より恐ろしいものがある。心臓にナイフを突き刺すことよりも、頭に銃弾を撃ち込むことよりも、もっともっと残酷で、人を狂わせる効果を持つものが。
 それは何? 聞くだけ無駄なことを。あんたはもう知っているだろ、その兵器の名前を。

 ほんの一瞬間、煌めきの残る刹那。額にあたたかなものを感じた。
「もう目を開けてもいいですよ」
 響くのは美しい音色。正面から聴いたことのなかったものは、何でも驚きで溢れているから不思議だ。
 暗闇から脱却すると、世界には光が満ちていたんだ――そう言ったのは誰だったろう。言ったのは、未来も見えないただの子供。知ったのは、永遠も手にできない一つの魂。
 凶器は時に人を救うのか? そんなことは知らないが、使い方次第で良くも悪くもなることなら理解できる。そういう点で俺は凶器とよく似ていた。誰も言わず、教えてくれなかったことだが、この場で初めて気がついた。そして俺は驚かずに、冷静にそれを受け止めることができたんだ。
 目前には美しい景色が広がっている。夕暮れのオレンジは、あいつにとって意味のある色彩らしい。そこに空色の瞳の少年を捜したが、黄泉の世界からの使者は姿を消しており、後には額に触れたあたたかなものだけが残されていた。
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お久しぶりでございます、そして

2008.04.27 未分類
どうにも最近、「命と魂」が書けなくなってしまったので、別の話を書こうと思っております。
別の話って言ってもそんなにハードで暗くて謎だらけな話じゃなく、基本はコメディな話です。
その理由として、まず最初に、一度原点に戻ろうかと思ったわけであります。確かに「命と魂」はこのネット上で初めて公開したオリジナル小説でもあったんですが、私にとっての原点はやはり、「Silent World」で出てきたロスリュやグレンが活躍する小説、「赤き星のペンダント」なんです。これは私が初めて文章として残した作品であり、また初めてオリジナルの設定を考えたもので、非常に愛着があるんです。そしてその設定の一つに、「異世界召喚」というジャンルも含まれているんです。で、この小説はとんでもなくコメディな内容だったわけで。
だから今後書こうと思った話は、まず異世界召喚ものであり、コメディであり、一人称であり、王道であるという感じになってます。


いつ更新できるか分かりませんが、それまで「命と魂」はお休みさせていただきます。
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「鏡のような世界」は決して「鏡」ではない

2008.04.19 未分類
最近日記らしいものを書いてませんでしたが、今日はちょっと嬉しいことがあったのでそれを先に書いておきます。
というのも某サイトの管理人さんの文章の中で、とてつもなく嬉しいことが書いてあったんですね。あえて名前は出しませんが。きっと分かるかと思われます。今日の日記のタイトルに注目すれば。
もう一つ書くことがあるとすれば、今はまたヘッセを読んでるんですが、「春の嵐」が面白すぎます。
やばいです。まじで。ものすごく。これだからヘッセはやめられない。
まだ途中なんですけどね。

というわけで、いつもの短い話(のようなもの)を。



 喜びを知らない人がいる。自分のすぐ隣に。その人に喜びの意味を教えてみた。相手は理解できないと言った。それより何か、ずっと遊んでいても飽きない物が欲しいとねだってきた。仕方がないのでポケットの中に放置されていた飴を渡した。相手は少し驚いたようにそれを見ていたが、やがてぽいと口の中に入れて器用にころころと転がした。
 二人で並んで座っている。自分の隣には黒い髪。男か女か分からない顔の裏には、確かに陰が存在していた。口の中で転がる飴の音が、異様に大きく聞こえてしまう。相手は足をぶらぶらさせ始めた。まるで子供のような仕草だ。表情には喜怒哀楽がない。普通の顔ほど怖いものはないというのに。
 ふと相手は自分の名前を呼んできた。確かめるように二度繰り返して。短く返事を返すとこちらを見てきた。髪と同じ色の瞳が深い闇を連想させる。
「なぜ君はそんなに俺の瞳を覗きこんでくるの?」
 希望も絶望も見出せない声だった。そこにはただ疑問があるだけで、甘い飴の効果は逆の方向へもたらされたらしかった。自分は返答に困った。しかし本当に、なぜと問われて言うべき答えは、一つでなければならなかっただろうか。
「さあなぁ。少なくとも最初は物珍しかったからだと思う」
「最初は? じゃあ今はどうなの?」
 この世に生まれてきてずっと、自分は髪も目も黒い人は見たことがなかった。世間ではそんな人のことを異端者と呼んでいた。異端とは何だったろう。どんな意味を込めてそんな名称を作ったのだろう。彼らが知らない間に、知らない人たちによって、知らない名前を付けられる。それほど理不尽なことが他にあるだろうか。ないはずだ、俺は知っている。この人の欠片を知っている。
「今は――」
 これ以上先の言葉を吐き出すのは困難なことだった。黙すると飴の音が響く。相手の黒い瞳がまばたきした。それは人間らしい動作だった。
「人だと思っているから」
 相手は何も言わなかった。また足をぶらぶらさせた。そして前を、限りなく広い空を見つめた。それから急にはっとして、自分の黒い髪を一本抜いた。切れた髪の毛はだらりとしおれる。相手はその様をじっと観察した。そのうち髪の毛はするりと手から滑り落ち、地面の上に辿り着いた。風によって運ばれるまで、それは強い存在感を醸し出していた。
「枯れ葉みたい」
 相手の口から漏れた言葉。悪意は感じられない。
「この髪の毛も、俺も君も同じ。異端という名称も、心の中の苦悩や葛藤、押しつけられた義務も疑問も、甘く飽きない飴だってそう。みんな同じ。同じ空間に存在している。俺たちはそれぞれの存在について、知らん顔をしていられない。知見は人を救うよ。覚えておいて損はない。知らない方がいいものなんて、結局たかが知れてる程度じゃない。……この世の中は全て数字で表されるんだ」
 理解できないことばかりだった。それでも相手は清々しそうに笑みを作った。こういう時に見せられる笑みは、いつもお世辞抜きで綺麗だった。喜びを知らないなんて嘘みたいだった。
「さて、行こう。オセが待ってる」
 先に立ち上がったのは相手。そのまま歩き出したので、どこか遠くの方へ離れていくような感じがした。止めなければならない気がした。独りにされるのが、怖かった。それでも手を出さなかった。相手は自分の所有物ではないと知っていたから。離れていくなら、手を振って見送らなければならないんだ。美しい微笑をたたえて、少しでも喜びを知ってもらうために。
 自分も立ち上がり、相手の後を追った。いつしか飴の音は聞こえなくなっていた。
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幼年期

2008.04.18 未分類
 あの頃、僕は幸福だった。すぐ傍に尊敬すべき人と大切な人がいたから。その幸福が永遠に続くものと勘違いしていた。いや、自惚れていたのかもしれない。本当はそんな偽りだらけの形は、時期が来れば壊さなければならないことを知っていたのだから。
 最後の日に僕の大切な人は飾らない笑顔を見せてくれた。とても優しげで、陰のない、美しい微笑みだった。僕はそれを決して忘れないように努めはしなかった。そんなことをしなくても覚えていられることを理解していたから。
 そうして彼の姿が消えていくのを目の前で見ていた。尊敬すべき人は次の仕事に取りかかっていた。僕はその場から、あの人と共に過ごした場所から離れねばならなかった。でなければ破壊されることが決められていた。
 破壊されればあの人に会えなくなる。もう一度会うと約束したんだから、僕もあの人も健全でなければ意味がない。その思いだけが僕を動かし、生かしていた。僕は何よりあの人にもう一度会いたかったから命を粗末にしなかった。
 途中の道では様々な人に出会った。少ない命を捨てて姿を差し出した鳥の精霊、世界の為に創られてしまった失敗作の兵器、そして僕らにとって敵と呼ぶべき立場にいる、二人の似通った少年と青年。誰もがそれぞれの理想を掲げ、目的に向かって走ったり歩いたりしていた。その横顔は儚げだけど美しく、またガラスのように壊れやすいものだった。
 彼らとの出会いはほんの序曲にすぎなかった。しかし実を言うと、その序曲だけで僕はもうまいってしまっていた。一人の人間が掲げる理想なんて大したものではないと甘く見ていたら、無防備な心にあまりに強すぎる思想をぶつけられてしまったのだ。時が流れれば全て丸く収まると思っていたのに、実際はただもうまとまりもなく各々が暴走していくばかりだった。それを落ち着かせることなどどうしてできるだろう? 僕は自分の無力を知った。自分の隣にいる人が、闇に落ちていくのを傍観するしかなかった。泣いても何も起こらなかった。僕の言葉はどこにも影響を及ぼさなかった。
 全てを終わらせたのは一人の少年だった。彼のことはあまり知らなかったが、僕は思わず悔しくなった。どうして彼にできて僕にできなかったのか。どうして彼の声が世界に響いて僕の全てが闇に葬られたのか。分からなかった。僕には理解できなかった。それでも彼の声は心地よかった。いつだって人間の声というのは、僕に穏やかさを与えてくれていたんだ。
 もうすぐ、昔の約束が果たされると思う。あの人はどんなふうに変わっただろう。僕の知らないものを知っているだろうか、僕の存在の意味を教えてくれるだろうか? 会ったらまず何と言おう。何と挨拶すればいいものか。しかし相手は僕のことを知らないんだ、僕は全てを覚えているというのに。
 ああ、また。あの人の名前を口に出してしまうだろう。僕にとって大切な人。あるいは……。
「レーズィラ」
 その響きはいつになっても色褪せない宝石だった。
 ねえ、あなたが言ったことを信じても許される? あなたを頼っても重荷にならない?
 だけどあなたは、きっと。
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自由と安楽

2008.04.17 未分類
 目に映るものはいつも汚いものばかりだった。美しいという言葉がこの世に存在するかどうか疑わしいほど、目の前に飛び込んでくるのは汚らしい欲望にまみれた様々な物体だけだった。さらにそれらはたくさんの種類に分類され、人々は嫉妬だとか思惑だとかいろいろと名前をつけていた。しかしそれらはただ名称を変えられただけのもので、元を辿ってみると全て同じ場所から発生していることがよく分かった。
 それらの何もかもを持ち合わせている人間が固まって生活している場所の中に、俺もまた存在していた。そこから逃げ出そうとも思わなかったし、何より彼らと共に過ごすことが当然となっていた過去では、抗うほどの気力も興味も捨て去っていたことは他の何よりも明らかだ。それでいてその場所から絶望を感じ、そこを深淵だと思い込み、困難な呼吸を続けていたのは非常に不可解な現象だった。しかし当時の俺はそんな不可解さすら分からない、気味の悪い人間だった。
 新しくつけられた名前を呼ばれてから幾年かが過ぎ去っているけれど、まだあの場所の記憶は生々しく残っている。汚いものばかりが溢れている場所。絶望しか感じられず、祈りすら届かないような牢獄。いつ俺はあそこが心地よいと言っただろう? 言えはしないはずだった、それなのに。
 赤いものは頻繁に目に入った。黒いものを見る日もあった。さらにはどういうわけか、白いものまで見せられた時もあった! 最も気色の悪いもの、それはあの白いもの。質の悪い冗談だ。そう言って上の人間は笑っていた。こっちの気も知らないくせに。何故笑っていられるのか分からない。奴らの考えていることなど、何も分からなかった。そうして再び絶望が通り過ぎていくんだ。そのまま消えてしまえばよかったのに、そういうものに限って長居するんだから困る。困るんだ。困ったけれど、弱音に耳を傾けてくれる人間はどこにもいなかった。
 人は孤独な生き物なんだといつしか自分に言い聞かせていた。そうすることで幾らか救われたのは事実だった。気持ちの持ちようだけでこんなにも変われるものなのかと思えば思うほど、腹の底では虚しさというものが止まることなく増大していった。そうして多くのものを内にため込むことは昔からの癖だった。今でもそれは直っていない。
 そんな暗闇の中に光が差したのはいつだったろう。最初はそれが光だとは気づかなかった。あるいは光だと考えていたけれど、愚かしいことにその光を暗闇へと変えてしまおうと考えていたんだろう。そうすることによって得られる感覚が当時の俺には他の何よりも快いと感じられたんだ。人を不幸に陥れること、他人の幸福を踏みにじること、一筋の光を与えておきながら後になってそれを遮断すること。それ以外は何も気持ちよく思わなかった。どうでもいいと思っていた。
 光に近づいたのは自分自身だし、光を拡大させたのも自分だった。あの頃はこんなことになるだなんて少しも予想していなくて、また時間が流れれば忘れ去られるんだろうと思っていた。細やかな記憶として留められているより、いっそ白紙に返して新しい色で染める方が粋だと感じた。おそらく俺は一種の自暴自棄に陥っていたのだろう。
 それだけなのに。


***


 それだけなのに、何だったろう。
 その先に続く言葉が何だったか、今ではもう思い出せなくなってしまった。あの頃も今も自分は自分であるはずなのに、まるで別人の考えが頭の中に入ってきたように感じられたのだ。親の元から離れた子供のように、作者の手から離れた作品のように、その記憶は私の手の上でころころと転がっては、じっと私を見つめて「お前は誰だ」と問うのだった。その質問に対し私は常に用意された答えを吐き出しかけて、ふと聞こえた音楽に耳を澄まして立ち止まった。音の発生源を探るとそれはあっけなく見つかった。私の友人が外れた音で陽気に歌を口ずさんでいたのだ。
「ふんふんふーん、らーらららぁー」
「すみませんが静かにしてくれませんか五月蠅いので」
「ひどっ!!」
「そう言われましても。あなたにとっては心地よいことかもしれませんが否応なしに聴かされるこっちの身にもなってください」
「さらに酷いですリオード君」
 友人はわざとらしく泣き出した。私は何か言葉をかけようかと考えたが、さらに調子に乗ることが目に見えるように分かったので相手の気が済むまで好きなことをさせていようと思い無視した。しかし彼は私の言葉に怯えたのか、その日は一度も歌を歌わずに夜を迎えた。
 翌日また外れた音が聴こえたのは言うまでもない。
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謝って許されるってわけじゃないことは知っているつもりです

2008.04.16 未分類
 そうやって君は遠い場所へ向かって歩くことを決めた。独りきりで何も持たず、荒野の風を心地よいと感じながら。俺はそれに対して何も言わない。言っても君には聞こえないだろう。聞く耳さえ持ってくれないんだから、仕方がないと諦める他はないんだね。もしたった一つ質問を許されるとしたら、俺は君にこう聞こう、君のその選択は意地を張った結果なんかじゃないよね?
 未来が崩壊するなら止めてみせようと君は言う。少女の自由が奪われるなら奪い返してやるとも君は言った。あの頃俺はそんな君のことを欲張りで浅はかだと考えていた。望みは一つだけ持つくらいがちょうどいいと感じていた時期だったからか、君にそれを分からせようと試みたけど失敗に終わった。君には何も伝わらなかったんだから。俺の考えも、感情も、知見も、何も。
 君は何も知らないまま俺の隣から姿を消した。天の束縛から逃れた君は今度は孤独を愛し始めた。しかし内面では幾つかの願望を抱えて離さなかった。それによって君が動いているってこと、俺が気づかないとでも思ってるのだろうか。馬鹿だね、俺は、君ほど無知じゃないんだから。それくらい解ってるでしょ? ねえ。
 幼い子供を放り出してそのままにしている自分が、君に対して非難することなんてできないんだと思っていた。だけどそれは嘘。子供は今もどこかで生き続けてるし、君は君で好き勝手なことを始めてしまった。俺の声の届かない場所で君たちは存在している。そして俺はまだその子供がどんな顔をしているのか、どんな名前を持っているのかということを知らない。だけどいつかは呼び寄せよう。呼び寄せて、顔を見て、眼を覗いて、手を握って。子供は『落ちた』から特殊な色彩を持っているだろう。どんな人間になったかは会ってからのお楽しみだ。できれば好い人であってほしいけど、あるいは死刑囚に含まれているかもしれない。
 君は彼のことをどう思うだろう。上の都合だけで造られた可哀想な命の炎を。青い光が見える。簡素な道の先にあるのは、昔夢見た月の世界?
 頭の中に眠るのは、君への思いと訳の分からない文字列くらい。あとは数字で埋め尽くされているから、足の踏み場なんて数えるほどしかないはずだった。君にそれを話した時、俺を馬鹿にしたように笑っていたね。毎日数字ばかり相手にするからそうなるんだと嫌味を言われた。しかし君、数学を知らないで、一体どうして世界の理が見えてくるって言うんだい。全ては数字で解決できるほど明瞭で単純なんだから。君が存在している理由だって、君が生まれた瞬間だって、数字だけで結論が出てきてしまう。俺はそれを『星のはじまり』と呼ぼう。
 あの子を上の人間に引き渡した時、君は怒るように悲しんでいた。当時は俺はそれが最も完璧に近い答えだと考え実行したものだけど、君がいなくなってから考えを改めてしまったんだよ。君は知らないだろ、そんなこと。今でもまだ俺のことを嫌っているのか。それでもいいよ、自業自得だし。だけどね、君がやろうと決めていることは、決していいことじゃないんだよ。君はそれに気づいてる? 今は黙っておくけど、今後もその考えを捨てない限りは、また君の邪魔をしなければならなくなる。そんなことは俺には耐えられないよ、それでも防がなくてはならなくなる。自分で気づくのが一番いい方法だけど、君は周りが見えなくなるからね、その望みは非常に薄っぺらくなってしまっている。君が怒るのも無理はないと思うし、あの子に惹かれるのももっともだ。そして君は人一倍優しいからね、世界を放っておけないんだね。分かってる、それくらい。俺を誰だと思ってるの?
 ねえ、俺をどんな目で見ていた? いつか聞かせてほしい。君の思いの丈、その全て。


***


「なんだこりゃ」
 見つけた文章はそこで途切れていた。
 誰かに宛てて書かれたものらしいが、その肝心の誰かの名前は一切書かれていない。それがあまりにあからさまだったので、あいつがわざと避けていたのが見え見えだった。
 しかし内容だけでは言っていることがばらばらで、一体何の為に何を目的として書かれたのかさっぱり分からない。手紙にしては独り言が多い気がするし、日記と呼ぶにはふさわしくないことはよく分かる。もしくは無造作に書かれたものかもしれないが、あいつがそんな意味のない行為をするとは思えない。だとしたら、これは一体何なのか。
「ちょっと、君?」
「え――」
 ぼんやりと紙を眺めていると後ろに奴が立っていた。しかしこれって不意打ちじゃねえか、卑怯な。
 咄嗟に紙を背に回し、隠す。我ながら古典的な反応をしてしまったものだと後悔するものの、相手はそれに気づいているのか気づかなかったのか、全く関係ないことだけを言ってきた。
「それで掃除を終わらせた気? 本は積み上げるわ紙はばらまくわで、一体君は本当に掃除というものをしているわけ? まあ居眠りしなかっただけましだとは思うけどね」
 嫌味の後に見せつけられたのは、とっても穏やかそうなやわらかい微笑み。
 背筋が凍る思いがした。
「ほらほら、硬直してないでさっさと始めなよ。俺は向こうで作業の方を続けるから、騒音で邪魔したりしないでね」
 相手はそれだけを言って部屋を出て行ったが、その後に続く言葉が俺には容易に推測できた。おそらく奴はこう言っただろう、邪魔したら君の首が地面に転がるよ、と。
 とりあえず何のことだか分からない紙切れを元の場所に戻し、再び俺は部屋の清掃に取りかかった。山のように積み上げられた本の中身は難しいものばかりで、俺には何もかもがさっぱり理解できないが、奴の目から見ればそれらは大切な物なのだろう。後で訪れる悪魔の雷から逃れる為にも、迅速に、かつ丁寧に整頓しなければならないことは言うまでもない。
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なんつーかゲームのBGMっぽいんですよ今回のリミックスは

2008.04.15 未分類
ごめんなさい。最近あまり小説のことを考えてませんでした。大学とか音楽ネタとかで切羽詰まってたので。大学生になって更新されなくなったサイトって結構私の身近にあったりしますが、管理人さん方のお気持ちが今になってようやく分かったって感じです。下書きの方も今のところまっ白。やばいです。しかも今週の土曜には私にとっては大変近場である某所へ日帰り旅行へ行くとか何とか(大学の行事で)。そんなとこもう行き飽きたよ!(汗
しかし、まあ、大学の授業はまだ始まったばかりで何とも言えませんが、うん、先生の話が寄り道していく頻度が非常に高い。ですね。正直それがとんでもなく楽しいです。
で、哲学の専門の先生の話を聞いていると、びっくりしたことがありました。その時に書いた一文がこれ。
 くしくも本日思い出したのは、すでに世間の深淵を舐め尽くした、手の届かない場所にいる“彼女”の言葉だった。
一体何のことかというと、その先生曰く、哲学というものは「普段当たり前だと思っているものは実はそうではないということを知る」ことだそうで。自明性の破壊だと。おっしゃってました。
で、4月8日、浜崎さんのニューシングル発売。Mirrorcle Worldの方が有名ですが、カップリングとしてLifeという曲もくっついてます。
……もうお分かりですよね。そういうことです。


しかしこのままじゃ駄目なので何か書かなければ。
短編とか? 無理でしょ(笑)。
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かなり暴走しちゃってるリミックス、なんとなく素晴らしい。

2008.04.14 未分類
少しご無沙汰してました、すみません。でもここ最近は気分的にあれだったので、日記なんて書かない方がいいんじゃないかと思ってたんです。
何と言うか、その、某サイトの人々について考えてたんです。さらに言えばそのサイト以外の人たちについても。なんで人の幸福を踏みにじるようなことをするんだろうって。その先に彼らは何を見出したいんだろうって。彼らは「虚しさ」というものを感じずにいるんだろうか、あるいはそれをも知っていながらそんな行為を続けるんだろうか、と。あえて某サイトの名前は出しませんが、私が浜崎さんのファン(一応)であることを考えると分かっちゃうんじゃないかと思われます。まあ某サイトの人々って言っても、全員が全員そうだとは言えないんですけどね。
っていうか皆さん年はおいくつなんでしょうね。不思議です。
今回の件についての結論。もう一度この曲を聴いてみましょう。


その瞳に映るものに頭を
支配されそうになっていると言うのなら
心の声を聞くんだ

≪中略≫

情報が誘惑が
溢れてるこんな時代だからこそ
僕達はそれぞれの
選択をして行くべきなのだろう

  talkin' 2 myself 浜崎あゆみ


要するに、私たちはメディアだとか噂話だとかを少しも疑いもせず信用しすぎるきらいがあるんです。冷静さを見失う時があるんです。もちろんそれは全員にあてはまることじゃなくて、立ち止まって自分の頭で考えることができる人だって大勢います。しかし、今回やたらはっきりしたのは、そういう人が意外と少なかったということです。目に見えるものだけを真実と思い込んだんでしょうか。もしくはその偽りの事実を本物に仕立て上げたかったのでしょうか。そうすれば他人が傷つくから? 他人の不幸が見えるから? つい最近似たような事件があったんだから、いい加減そういうことに気づいてほしいと思ったんですが、無理なんでしょうか。我々はそこから抜け出せないんでしょうか。


目に見えないものを信じていられたのなんていつのことだろう
この頃じゃ何もかもが見えすぎて解らなくなっている
  And Then 浜崎あゆみ
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ウェルテル、読み終えました。

2008.04.08 未分類
今日は浜崎さんのシングル発売日。
Mirrorcle Worldもそうなんですが、LifeとDepend on youの新録も楽しみでした。いや、結局YOUはおあずけにしちゃったんですよ。
なんて言っててもこういう話はファンの人しか興味がないんですよね。私はちょっと前まではまだファンではないと思ってたんですが、アルバムを全部集めてしまったのでもう立派なファンですね(笑)。
というわけで、ファンじゃない人向けに曲の紹介でもしてみようかと思います。興味がない人は無視ってください。さわやかに。
あくまで主観ですので、違うと思ったら生温かい目で見てやってくださいね。

1.Mirrorcle World
見事にGUILTYの雰囲気・構成・気持ちを受け継いだ作品。といっても万人にも理解できるように仕上がってます。この曲はサビだとか全体の構造だとかより、音にこだわった感があります。あらゆる音が混じってます。はっきり言って面白いです。そう。Mirrorよりも音が増えてます、明らかに。というか、Mirrorからここまで発展させられることに対する驚きが大きかったですね。
流れとしては、オーケストラ調で始まり、Mirrorのメロディがしばらく続き、ふっと静寂が訪れる。そうして一種の「嘆き」を歌い上げた後、音を立てて壊される。そしてまたMirrorに戻り、全ての幕を閉じる。って感じですね。
曲のあいだに「ねえ僕等とこの世界は 減速する様子もなく このまま加速度だけが 増し続けたら……」ってところがあるんですが(最初聴いた時はなんだこれ凄すぎる! と興奮したものです)、まあこれがさっき言ってた「嘆き」です。まず世界(社会)に対する警告、次にこの曲を聴いている人に対してのメッセージ、そして自分自身に対する言葉、のように聞こえました。だって「僕等のこの世界」ではなく「僕等とこの世界」だから自分も含まれてるんですよ。確かにこの世界って加速してますもんね。ちなみに加速という単語はtoo lateとPrideにも出てきてます。そうしてふと思ったんですが、今の世界ってもしかして、加速度だけが増え続けているけど実は、「世界」としては衰退しているんじゃないのか、と。ほら、人間だって何だって、何年も年を重ねるとまず発展するけど、頂点を過ぎるともう衰退する他はないじゃないですか。あるいはそれがこの曲の主題なのかもしれません。Mirrorの時と同じように、疑問だらけでこれといった結論が最後まで出ないあたりもとても意味深。このまま加速度だけが増し続けたら、その先に待つのは……破滅?

2.Life
この曲を初めて聴いた時は、なんとなく「A Song for XX」の頃と似ていると思いました。歌詞も、曲調も。メロディとしてはそれほど暗くないけれど、実際は歌詞を確認すると悲しみを謳っている。だけどそれでも明るく前向きに進もうとする姿勢が示され、とても美しく儚げに終わりを告げる。と。そこまでなら昔と変わらないんですが、昔はどちらかというと無理に前向きにしようと努めていた感があったんですよね。でも今はそのようには感じられない。それは。
で、改めて「Life」の意味を調べてみると。
 生命。寿命。人生。生命あるもの。生き方。生涯。(死をかろうじて免れたのちの)新しい出発。生気。弾力。終身刑。最も大切なもの。神。
とまあ、実にいろんな意味が掘り起こされてきたわけですが。最後の「神」って何やねん。

3.Depend on you
あなたがもし旅立つその日がいつか来たらぁ♪ ……すみません。
原曲からのアレンジが面白い作品。とくに始まりと終わりが素晴らしいですね。
相変わらず背中を押してくれる(けどちょっと暗い)曲です。昔より歌うことに無理がない感じで、ようやく素でこの曲を受け入れられたのかなと思いました。
ちなみにYOUはとても優しい曲です。でも涙なくしては語れないという歌詞で、それが逆に美しさを付加しているような感じ。とだけ言っておきましょうか。

個人的にシングルが気に入ることって滅多にないので、今回はその例外に含まれ「買ってよかった」と思ってます。売れ行きがどうなるかは知りませんが、まあちょっとファンじゃない人や一般の人には分かりにくい曲かなとは思いますね。でも少しでも気になっている方はレンタルでもいいので聴いてみてください。はっきり言って、今回は聴かなきゃ損です。本当に。
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終わりなき悲しみ

2008.04.07 未分類
なんだか最近、FF9のことを急に思い出しました。
私は実はFFは9と10しか知らないんですが、9はかなり好きだったんですよね。CGとかはどうでもよかったけど。話が好きだったんですよ、ええ。
その影響が小説の方でも表れていたりします。まあ最終的には影も形もなくなるほど変形されたんですが。でもたまにBGMとか聴きながら書いたりしてたので、それっぽい雰囲気(?)は残っていると思われます。
というか、今思い出してみるとSって最初は何の設定もなしにいきなり書き出したんですよね。それでちゃんと設定が作られて完結できるなんて、我ながら恐ろしいことをやってのけたもんだ。昔の設定とか眺めていたら、今とは全然違うことが書かれていたりするので変な気持ちになります。ダザイア様とかかなり悪役だったし。ラスさえいなかったし。
それが今の形として設定がまとまったのはおそらく第二幕に入る前。第二幕の最初にラスが出てくるので、その時にはもうちゃんと伏線をはってたからそうだと思います。

Sを読んでいると懐かしくなったりしますが、それでもやはり悲しくなります。本当にこの話ってお笑いなのか真面目なのか分からない(苦笑)。


例えば信じるもの何ひとつなくなったとして
例えばそこにはただ絶望だけが残ったなら
どうかこの祈りを
  Endless sorrow 浜崎あゆみ
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「灰色のビル」に「灰色の街」に「灰色の四角い空の下」。

2008.04.06 未分類
最近あまり書く気が起きなかったんですが、ある一つの事実を発見したおかげで嬉しさを覚え、なんとか更新することができました。
とか言うと挫折と紙一重みたいですが、別にそういうわけじゃありませんので。


今回の話で第三幕に突入しました。一応。なんか微妙なところで切ったなぁとは思いましたが。
まあ話が別の方向へと向かっていくのでここで切るのが一番いいかと思ったんです。
第三幕ということで、物語も中盤へと差し掛かりました。早いねぇ。まだ15話なのに中盤だなんて。
主人公もそろそろ悩み始めます。ぐるぐるし始めます。樹君第二号になりかけてます。それがいいかどうかなんて知りませんが。

……でもなんとなく、この話っていまいち盛り上がりに欠けるよなぁって思ったりします。今までもさらさらっと流してきた感覚があるし、今後はいろんな場所を回ることになるんですが、Silentの時みたいなド派手な演出はあまりないし。あ、でも第五幕では派手になるかも。
おそらく盛り上がりに欠けるのは戦闘場面がないからだと思われます。そういえば改稿前では戦闘も多かったんですよね。それがなんでこんなことになってるんだろう。

駄目だ。何か一つくらい明るい話が書きたい。


とりあえず今回の幕のサブタイトル「芸術家と透った世界」は、改稿前の「芸術と優れた者」が元ネタです。懐かしい。
で、ここに芸術家という単語が出てくるということは、奴も出てくるということであり。
…………。


孤独で何も見えなくなったんじゃない
もう何も見たくなかったんだ
  immature 浜崎あゆみ

てんちしんめい

2008.04.03 未分類
最近(というかもうかなり前から)の野望その一。
ロイの視点で話を書きたい。もちろん一人称で。
……こんなふうに「ノクターン」は製作されましたとさ。あ、あと「死者には花を供えるべきだ」も。


それはいいとして。
本日は大学の入学式でした。オリエンテーションでした。しかしオリエンテーションってどんな意味だったっけ? と考えていると終わりました。オリエントの世界とは関係ない……ですよね。

大学とは、
「生徒→学生」
だそうです。

それだけ?


そして話は冒頭に戻ってみると、悪役(あるいは敵役?)の視点というのは私にとってとんでもなく書きたい部類に入れられるものなのです。やはり悪役がいなければ作品は成り立たないわけで。でも今になってよくよく考えてみると、Silent Worldの方では敵役と言えば例の三人組(+α)というように分かりやすかったけれど、命と魂ではそういう分かりやすさというものがないんですよね。ロイってかなり性格悪いしやってることもろくでもないことばかりだけど、それでも扱いとしては「メインメンバー」に入れられているんですよね。その時点からして「ああラスボス(いるとすればの話だけど)はこいつじゃないんだ」と分かっちゃうんです。いや、こういう見方をすればかなり分かりやすいんですが。でも立場的に、こう……悪役なのにメインに入っていると、どうしても出番が多くなり、悪役としての色よりもメインとしての姿の方が強調されていく、と。そうすると今度は悪役としての顔が書きたくなる。真の知らないところでどんなことをしていたのかとか、組織の中で生きていてどんなことを思っていたのかとか、そういうことって実際に書いてみないと作者にも分からないんですよね。言葉にしてみて初めて「ああ、こいつはこういう考え方をしているんだ」と思ったことは幾度もあったし、Silentのラスだって本音を出すまではあれほど強い意見になっていくとは思ってもいませんでしたし。だからSilentを書いていた時期に例の家族だけの集まりの話を書いてみたり、スーリの一人称の話を書いたりしてたんです。まあ彼らに限って言えばそれを書いた時点では、結構一人一人の信念とか何とかはきちんと整理されていたとは思うんですが。だけどノクターンというか、原点物語では、どうにもアスターの事情を書いておかないと不安定だと感じたわけです。作中では彼は悪役(いや、こいつの場合は敵役だ)として描かれているけれど、いざ蓋を開けてみれば……って感じの奴なので、最後まで敵役を押し通すことよりも、彼の抱える理由だとか人間臭さなんかを表してみた方が、よっぽど有意義な人物になると思ったんですね。で、話はロイに戻りますが、こいつの場合はそういうことができないんです。なぜってそれは、命と魂のメインのイベントに関わってくるから。うん。そうなんです。こいつで一人称を書いていたら、絶対と言っていいほどぼろが出るから。何かとお喋りだからね、何でもかでも言っちゃうんですよ、彼は。そういうわけで書けないと。いうことに。なりまして。だけど。実際は、もう、Sではネタばらししちゃったんですけどね。

……長い文章を読んでくださりありがとうございます。最後の一文が気になる方は、命と魂にもちらっと出てきたお馬鹿な主人公の樹君が大活躍しないSilent Worldを読んでみてください、第三幕あたりから。いやいや命と魂でネタばらしされるのを意地でも待つ! という方は、どうぞ待っていてくださいませ。おそらくその方が何倍も楽しめるかと思われますので。じゃあ書くなよ! というのは禁句ですよ(すまいる)。

なにはともあれ。
以下、ボツネタ集。